SNSの普及により、誰でも気軽に写真や動画を撮影・拡散できる時代。
来店客が店舗内で撮影し、SNSに投稿する行為は、集客チャンスにもなりますが、一方でトラブルの火種にもなり得ます。
最近では、プロ野球(NPB)が観戦時の撮影・配信ルールを明文化し、話題になりました。こうした動きからも分かるように、店舗やイベント会場など、"撮影される側"のルール整備が急務となっています。
本記事では、撮影OK/NGの事例を踏まえながら、企業や店舗がどのように「撮影ルール」を定め、どのように顧客へ伝えるべきかを詳しく解説します。
なぜ今、「撮影ルール」の整備が必要なのか?
X(Twitter)やInstagram、TikTokなどに代表されるSNSが普及し、SNS上で画像や動画を介して情報が共有されることが当たり前の時代になりました。SNSは多くの人が利用しているだけでなく、それぞれのユーザーが関心を持つ情報が届きやすい仕組みになっていることから、良い情報も悪い情報もあっという間に拡散され、話題になります。
そうしたSNSの影響力は、利用人口の増加とともに年々増大しています。小さなきっかけで大きな炎上に発展し、企業のイメージや売上を損なってしまうことも増えているため、何らかの対策が求められます。特に最近は、店舗やイベント会場などで撮影された画像や動画の投稿が火種となり、トラブルや炎上に発展するケースが後を絶ちません。
トラブル例①:肖像権やプライバシーの侵害
たとえば、投稿者に悪気がなくても、何気なく店内で撮影した写真に他の来店客が写り込んでいれば、肖像権やプライバシーの侵害になってしまうことがあります。
トラブル例②:他の来店客に迷惑をかける行為、いたずら
あえて店内でいたずらを仕掛け、その様子を映した動画をSNSに投稿してバズを狙うといった悪質な事例もあります。
2023年1月には、少年がスシローで迷惑行為を行う様子を撮影して拡散。動画を見た一部の人からは「もうスシローに行けない」という声が聞かれ、株価にも影響し、最終的にはスシローが損害賠償を求める裁判にまで発展しました。
トラブル例③:放映権や企業の利益の侵害
スポーツ観戦においても、会場で撮影した試合の動画をSNSに無断でアップロードしたり、広告を付けて中継したりして、個人で収益を得るといったケースが見られます。これは、メディアの放映権や利益を侵害する行為であり、過去には裁判にも発展しています。
このように、他意があるかどうかにかかわらず、SNSにおける画像や動画の投稿は権利や利益の侵害、企業イメージの低下につながる可能性があります。こうしたトラブルや炎上を未然に防ぐためには、「撮影ルール」の整備と明文化が必要です。
業界別・撮影ルールの実例まとめ
2025年2月、日本野球機構(NPB)が、試合観戦における写真や動画の撮影、SNSへの投稿などに関するルールを示す「写真・動画等の撮影及び配信・送信規程」を制定しました。このルールの制定によって、一時「NPBの撮影ルール」がトレンド入りするほど大きく話題になりました。
日本野球機構(NPB)が明記した内容の一部を簡単にまとめます。
- OK:プレーや球場内の様子を写真や動画で撮影し、個人や友人間で楽しむこと
- NG:プレー中の選手を撮影した写真や動画を、SNSなどのインターネットメディアに投稿すること
このルールの目的は、試合の動画を個人が無許可でアップロードし、収益を得るといった行為の防止です。プレー写真や動画の投稿を通して、SNS上で交流をしていたファンからは残念がる声も聞かれましたが、思いきったルール制定によって、放映権やプロ野球の利益を守っています。
他にも、サッカーのJリーグは、SNSに試合中の写真の投稿はOKとする代わりに、動画の投稿はNGとしています。また、バスケットボールのBリーグは、試合中の写真も動画も投稿OKとしていますが、動画は15秒までという制限を設けています。
上記はスポーツ観戦における事例ですが、店舗やイベントも同様に、来店者や参加者に向けた撮影ルールを定めているところが多くあります。
撮影OKとしているケース
たとえば、100円均一ショップのダイソーは、店内での写真や動画の撮影を許可しています。Seriaは店舗ごとにルールが異なり、入店している施設自体が撮影NGの場合は撮影不可、そのほかの場合は他の来店客が映り込んでいないかといったことには注意するよう呼び掛けて許可しています。張り紙で明示しているようです。
飲食店でも、撮影ルールを明文化しているところがあります。後述する、とんこつラーメンの一蘭では基本的に撮影を許可していますが、YouTubeなどの動画サイトに投稿する動画を撮影する場合は、従業員への声掛けを義務付けています。
音楽ライブでも、海外のアーティストは全面的に撮影OKとしていることが多いようです。一方、日本の音楽ライブでは原則撮影NGとしている場合が多いですが、最近は一部の楽曲のみ撮影・投稿OKとするライブも増えてきています。
撮影NGとしているケース
コンビニ大手3社のセブンイレブン、ファミリーマートなどでは、店内での撮影を全面的に禁止しています。また、100円均一ショップであっても、キャンドゥでは店内撮影を禁止しています。
ゲームセンターでも、プレイ中の撮影はNGとしている場合があります。ゲームのプレイ動画や実況動画は人気のあるコンテンツですが、著作権やプライバシー侵害の可能性があることをなどを理由に、店内の張り紙や店員による声掛けを行っています。
ちょっとSNSに投稿したい、という場合であっても撮影ルールは店舗によって異なります。ここで紹介している例もあくまで一例であり、記事更新時点での情報ですので、今後変更になる可能性もあります。
公式サイト上で明記されていない場合もありますが、モラルを守って以下2点を確認しておくとよいでしょう。
- 撮影許可OK/NGの張り紙を確認
- スタッフに確認
ここから先は、店舗が撮影ルールを作るならどうするか?というところを解説していきます。
店舗が「撮影ルール」を作るときの基本方針
前章で挙げた事例のように、同じスポーツ観戦や同じ業界であっても、運営元や企業によって撮影ルールの内容は大きく異なります。こうしなければならないという決まりはないため、自社の店舗で撮影ルールを定める場合は、何をOKにして何をNGにするか、権利の遵守や自社の利害についてよく検討して決めましょう。
OKの場合
たとえば、店内の撮影やSNSへの投稿をOKとすれば、まだ店舗を訪れたことがない人などの目にも情報を届けやすくなり、認知拡大や興味喚起、行動喚起が見込めます。
NGの場合
一方、店内の撮影やSNSへの投稿をNGとしているケースでは、余計なトラブルや何らかの権利の侵害を防ぐといったことのほかに、競合他社に価格設定や店内ディスプレイ、ゲームセンターであれば景品の配置テクニックなどを知られないようにするといった意図もあるようです。
このように、何を重視するかによって、撮影ルールの基準は変わります。やみくもに「禁止」とするよりも、きちんと検討して「ルール化」する発想を大切にしましょう。
全面的に撮影OKとする際に、注意すべきこと
店内全般で撮影OKとする場合にも、撮影者に対して、他の来店客のプライバシーを侵害しないように注意喚起を行う必要があります。特に見落としがちなのは、試着室やトイレといったプライベート空間での撮影や、混雑時の撮影です。こうした場やタイミングでは、意図せずにプライベートな情報が映り込んでしまったり、他の来店客を不快にしてしまったりして、トラブルに発展する可能性が高くなります。
顧客への伝え方と運用の工夫
制定した撮影ルールは、どのように顧客に伝えればいいのでしょうか。
基本的には、店内ポスターの掲示やPOPでの訴求、SNSでの呼びかけやWebサイトへの明記といったことが挙げられます。また、店舗スタッフにもルールの周知を徹底し、場合によっては直接来店客へ声がけするといった対応も必要です。
- 店内ポスターやPOPで掲示する
- SNSで周知する
- Webサイトで周知する
- 店舗スタッフの対応フローを決める
なお、これらの伝え方はひとつだけではなく、組み合わせて活用することで顧客に伝わるようにします。これらの「撮影ルール」を伝えるための運用上の工夫を詳しく確認しておきましょう。
■店内ポスターやPOPで掲示する
店内のエリアによって撮影ルールが異なる場合は、その内容もしっかりと掲示するようにしましょう。実際に使用する際は素材サイトの規約に従って正式にダウンロードしてください。
撮影禁止の場合:
(Pixta画像例)https://pixta.jp/illustration/95567602
動画の撮影を禁止する場合:
(Pixta画像例)https://pixta.jp/illustration/88479302
撮影OKの場合:
(Pixta画像例)https://pixta.jp/illustration/4602584
■SNSで周知する
SNSのプロフィール欄や投稿で周知する方法もあります。
プロフィールへの記載例

SNS投稿による注意喚起例
‼️ご来店時のお願い‼️
— 𝓡𝓮⑅⃛れおぱら (@Re_Leopara) September 16, 2023
①お車でご来店の際は
必ず事前予約をお願いします🙇♀️
自宅兼店舗の為
駐車台数に限りがあります🥹
路上駐車は近隣の方の迷惑になる為ご遠慮下さい⚠️
②店内は撮影禁止です🈲
無断撮影はご遠慮下さい🙇♀️
尚、無許可の写真や動画を発見した際は
盗撮扱いとし対応させて頂きます🥲 pic.twitter.com/r7D3dJisUM
■Webサイトで周知する-「よくある質問」やQ&Aページ、ポリシーページに明記(記事公開日時点)
よくある質問やQ&Aページ、ソーシャルメディアポリシーなどで明記するパターンもあります。
ラーメン店「一蘭」の例
人気ラーメン店の「一蘭」では、SNS投稿時のお願いを明記しています。店内外の様子をSNSにご投稿の際は、『他のお客様や従業員(名札も含む)の映り込み』にご注意くださいとして記載されており、YouTubeなどの動画撮影は従業員への声掛けをするよう呼びかけています。なお、「LIVE配信」や「生配信」はどのような内容であっても撮影禁止とのことです。
https://ichiran.com/contact/snsvideo.html
コンビニエンスストア「セブン-イレブン」の例
コンビニエンスチェーンの「セブン-イレブン」では、Q&Aページに「店舗画像を使いたい、店内を撮影したい」の回答を表示しています。
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セブン‐イレブン店舗を利用しての撮影は一切お断りをしております。
報道関係のご要望による、店舗設備や商品の撮影につきましては、
弊社広報室と内容を確認の上、撮影の許可を出させていただいております。
■店舗スタッフの対応フローを決める
撮影ルールを明記した掲示物は、店内の入口やレジの横、陳列棚などの目立つ場所に貼って、ルールを周知するようにします。
そうすることで、来店客に尋ねられた場合や、ルールと異なる行動をする来店客に声がけをする場合にも、「あちらに明記してありますので」と根拠を持って伝えられるようになります。また、すでに撮影された画像や動画はその場で削除してもらうことが望ましいですが、相手が拒否したからといって強制したりきつく言ったりすることはせず、やわらかに退店を促すなど、落ち着いて対処しましょう。
撮影禁止としていても撮影がなくならない場合は、撮影されやすい商品や展示物をスタッフの目に入りやすい場所に移動させる、カメラを設置するといったことも効果的です。
ルールに従って注意したのにもかかわらず、クレームなどに発展してしまった場合は、できるだけ冷静に対処することが大切です。相手の話に耳を傾けつつ、撮影をNGとしている理由を説明するようにしましょう。
SNSガイドラインを整備してトラブルを未然に防ぐ
運用ルールを定めるほかにも、SNSに関わるガイドラインを整備して公表し、SNS上で何かが起こったときの企業としての姿勢を明確に示しておくことも大切です。
店内の撮影に関するガイドラインには、以下のような内容を盛り込むといいでしょう。
- 店内の撮影には、許可が必要かどうか
- 撮影した画像や動画をSNSに投稿する際の条件や注意事項
- 店内の撮影や投稿に関する禁止事項
- 禁止事項を犯した場合、企業としてとる姿勢や処置について
- 自社の責任範囲 など
炎上やトラブルを避けるために一律で撮影NGにしてしまうという方法もありますが、撮影をOKとし、SNSで拡散してもらうことで、プロモーションとして良い影響が得られるケースもあります。そうした場合は、あえてオリジナルのハッシュタグを作成するなどして、撮影や投稿を促すことも検討しましょう。
オリジナルハッシュタグとは、独自の用語を使ったそのブランドだけのハッシュタグのこと。自然発生的に生まれることもありますが、公式アカウントが使うことでそのファンたちにも広がっていきます。
オリジナルハッシュタグの事例については、こちらの記事も参考にしてください。
まとめ
SNS時代において、撮影ルールの制定は、リスク対策のためにも必要です。
ただ、画像や動画を撮影し、SNSに投稿してもらうことによって、自社やブランド、商品などについて好意的な話題となれば、ブランド価値や売上の向上につながることも期待できます。そのため、一概に撮影を禁止とするのではなく、何をOKにして何をNGとするかをしっかりと検討しましょう。
そうしたルールの明文化と伝え方次第で、SNSをポジティブな活用が実現できます。自社でSNSを運用するのももちろん大事ですが、一般のユーザーに話題化してもらう(UGC)ことほど、効率的で効果的なことはありません。
社内だけでは運用ルールやガイドラインの整備、SNSの対応が難しい場合は、株式会社コムニコがサポートいたします。SNS運用支援についてのお問い合わせから「SNSガイドライン・撮影ルールについて」、ぜひご相談いただければと思います。
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2018年に株式会社コムニコへ入社。コンテンツクリエイターとして、企業・自治体のSNS企画・運用・コンテンツ制作を行う。コムニコが持つ知見を広めるために編集経験を活かして「We Love Social」運営・編集・記事執筆などのコンテンツマーケティングを担当。一般社団法人SNSエキスパート協会認定講師としてSNSに関する安全で正しい知識の啓蒙にも努めている。